東京高等裁判所 昭和24年(行ナ)11号 判決
原告 白山製藥株式会社
被告 特許庁長官
一、主 文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、請求の趣旨
原告訴訟代理人は、特許廳が同廳昭和二十四年抗告審判第五三号事件について昭和二十四年四月二十三日なした審決はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めた。
三、事 実
原告は鼻療器に関し全体をエボナイト軽金属等内容藥効に変化を及ぼさない資材をもつて構成し、吸入孔を具備する円頂すなわち第一円筒に第二円筒次いで蓋体を累合し通気孔により藥液を吸入せしめるようにして成る鼻療器において右蓋体の第二円筒との累合部に通気孔を具備せしめた構造の考案をなし、昭和二十二年十二月十五日特許廳に実用新案登録の出願(昭和二十二年実用新案登録願第一四二七八号)をなしたところ特許廳は昭和二十四年二月七日右出願はその出願前国内に頒布せられた刊行物すなわち鼻治療器に関する昭和十五年実用新案出願公告第一三三七五号公報に容易に実施することができる程度において記載せられたものと類似であるから実用新案法第三條第二号の規定により同法第一條にいわゆる新規な考案と認めることができないとして右出願を拒絶する旨の査定をなした。
よつて原告は昭和二十四年三月九日特許廳に対し抗告審判の請求(昭和二十四年抗審判第五三号)をなしたところ、同廳は同年四月二十三日上記の査定と同一理由によつて抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をなし、右審決は同年五月四日原告に送達された。しかしながら原審決が原告の出願拒絶の理由として引用した前示公報記載の鼻治療器は突端に放気孔を有する軸筒の他端栓蓋との累合部及びその栓蓋に給気孔を別々に設けて開閉できるようになし内部に藥液を滲潤させた脱脂綿を累旋発條により納めた構造を要旨とするものであるのに対し原告考案の鼻療器は蓋体と第一円筒及び第二円筒からなる軸体との累合部で軸体の末端部との接触する直近部に蓋体だけに通気孔を設けその通気孔を常時は包藏せしめた構造を新規とするものである。しかして両者の構造上にこのような差異がある結果(イ)原審決引用の鼻治療器においてはその使用に当り栓蓋と軸筒に別々に設けた給気孔を重合一致せしめて始めて給気の目的を達することができるようにその取扱について煩瑣な手続を要するのに比し原告考案の鼻療器は單に蓋体を僅に旋回抽出するだけでその目的を達することができるのであるから至極簡便な操作で足りるのである。又(ロ)原審決引用の鼻治療器においては栓蓋に設けた給気孔は常時外部に露出の状態に置かれて居るためその給気孔の部分に塵芥が侵入附着する危險があつて直接吸入する治療用器としては衞生の点において欠けるところがあるのに比し原告考案の鼻療器においては給気孔は軸体の累合部に常時包藏されて居るためこのような状態を招くおそれは全くない。以上のように両者の間にはその構造上に顕著な差異がありそれによりその効果作用にも顕著な差異を生ずる、換言すれば原告考案の鼻療器だけに存する効果作用は畢竟原審決引用の鼻治療器に比し構造上に著差があるところから招來されることに帰するにも拘らず原審決がこの点を看過して原告の出願を排斥したのは失当であるからこれが取消を求めると述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告の主張事実中原告がその主張の鼻療器に関する考案について特許廳に實用新案登録の出願をなし拒絶の査定を受けたこと、次いで原告が特許廳に抗告審判の請求をなし請求は成立たない旨の審決を受けその送達を受けたこと、特許廳が右審決に引用した鼻治療器の構造が原告主張の通りであつて原告考案の鼻療器に比し構造上原告主張の通りの差異あることは認めるがその他の事実は否認する。しかしながら原告考案の鼻療器は原審決引用の鼻治療器に比し全体的に観れば構造上微査があるに過ぎない。すなわち原告考案の鼻療器における通気孔の設け方は從來容器内の流体を小孔から流出するために他の部分に通気孔を設ける型、例えば「パイプ」醤油注等の普通に行われて居るところであつてこの点から観れば周知の型に属するものに過ぎないのであるから原告考案の鼻療器は原審決引用の鼻治療器に対しその給気の部分に周知の考案を取り入れたものに外ならない。しかも給気という目的を一にする以上その轉用には特に工夫を要しないわけであるから原告考案の鼻療器は畢竟これを別異な新規な型となすことはできないと述べた。(立証省略)
四、理 由
原告が鼻療器に関するその主張の考案について特許廳に実用新案登録の出願をなし、右出願につき昭和二十四年二月七日原告主張の理由で拒絶の査定がなされたこと、次いで原告がこれに対し特許廳に抗告審判の請求をなし、右請求につき同年四月二十三日原告主張の理由でその成立たない旨の審決がなされ、原告が同年五月四日その送達を受けたことは当事者間に爭がない。原告はその考案が新規の型に属する旨、すなわちその考案は原審決引用の鼻治療器(同器が乙第二号証記載の構造であることは原告において認める)の考案に比しその構造、殊に給気孔の構造に著差がある旨を主張するを以て案ずるに、原告考案の鼻療器と原審決引用の鼻治療器とはいずれも軸筒(又は軸体)内の治療藥を給気(又は通気)により吸入(又は放気)の目的を達せしめようとする裝置であつて給気に関する部分の構造を除きその余の部分の構造につき両者の間に著差あることはその構造自体に徴し到底認めることはできない。しかして給気に関する部分の構造について観るに原告考案の鼻療器においては蓋体の軸筒(すなわちその第二円筒)との累合部に孔を設け蓋体を旋回して抽出又はそう入することにより通気孔を開閉する裝置であり、原審決引用の鼻治療器においては軸筒の一端の両側及び栓蓋の両側に孔を設け栓蓋を旋回し軸筒の孔と栓蓋の孔を合致せしめ又は喰い違いの位置にあらしめて給気孔を開閉する裝置であることは当事者間に爭のないところであつて両者の間のこの構造上の差異を参酌すれば、原告考案の鼻療器において蓋体を旋回抽出して通気孔を開く裝置は原審決引用の鼻治療器に於て軸筒の孔と栓蓋の孔を合致せしめて給気孔を開く裝置に比べて孔を合致させる労作を必要としないこと、又前者の通気孔が蓋体の挿入と共に外部から隠藏されることとなるため後者の軸筒の給気孔が外部に露出されるのに比べてその通気孔に塵埃の附着を防ぎ清潔を保ち易いことは推測ができる。しかるに成立に爭のない乙第一号証によればすでに昭和五年中に原告考案の通気孔の裝置と同一の型による導気孔を具備する「オゾンパイプ」について実用新案の出願公告がなされて居ることが明らかであるから原告考案の鼻療器における給気の部分の構造についてはその出願前にすでに同一の型が周知の状態にあつたものと認められる。しかも鼻療器といい「オゾンパイプ」というも結局給気により内容藥の吸入を目的とする裝置であることにおいてその軌を一にしているのであるからその部分の構造に関する考案を一方から他方へ轉用することは容易になし得る状況にあるものと認めることができる。
しからば原告考案の鼻療器は本体が原審決引用の鼻治療器と同一の型に属すると共に給気の部分の構造には周知の型を應用したのに過ぎないものと認めることができるのであるから実用新案法第一條にいわゆる新規の型に該当しないものと認めるのが相当である。從つて原告の実用新案登録出願はその要件を具備しないものとしてこれを拒否すべきものとする原審決は相当であつて原告の請求は理由がない。
よつて民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 松田二郎 岡崎隆 多田威美)